2019-01-01から1年間の記事一覧

言葉より大事なもの

−ジャズ・シンガーのエラ・フィッツジェラルドが、あるときこう質問された。 「エラ、ジャズってなんだい?」 エラはすこし考えて、ゆっくりと口を開いた。 そして、彼女は心躍る魔法のようなスキャットをはじめた− 20代前半のころ、とても好きな雑誌があっ…

きっと何より記憶に残ること

先日の晴れた金曜日、会社の昼休みにひとりランチに出かけた。牧歌的な雰囲気が気に入っているトラットリアで焼き立てのマルゲリータピザを食べた。食後のデザートとコーヒーを済ませ、一息ついて会社にもどろうとした。 帰り道に木陰の歩道を歩いていると、…

「普通」はむずかしい

何年か前に、小説を書こうとしたことがある。本が好きで、文章を書くのが苦じゃない人なら一度はやったことがあるのではないだろうか。 私の場合は、書いたものが小説の体をなす前にあきらめてしまった。理由は簡単だ。物語を書き進められなかったのだ。 劇…

誰しも自分のことは分からない

ここ最近で読んだ漫画の中で、ぶっちぎりのマイ・ベストは『サルチネス』だ。 『行け!稲中卓球部』を生んだ古谷実によるギャグ漫画で、全四巻の中編作品。これを読んでからというもの、気がつけばこの漫画のことをよく考えている。 登場人物はそれぞれ何かし…

自分を大事にするって、つまり「何もしないであげる」ってことなんじゃないかって話

今朝起きて、すこし困った。 「今日、何しよう」、と。 そもそも予定を立てるのがあまり好きではない性分なので、普段からわりと暇なのだが今週末は殊更に暇だった。予定といえるものが微塵もなかった。 そこで、ベッドで横になったまま、「本日上映中の映画…

スナフキンに恋して人間と失恋した話

むかし、スナフキンに恋したことがある。 正確に言えば、スナフキンみたいな人に恋をした。 彼は、どことなく他の男の子とは違う雰囲気を持った人だった。何にも執着がなさそうで、私の目には風のような自由を帯びて見えた。彼をひと目見て、すぐに私から声…

もしも無人島に持っていくなら

そんな状況に陥ることはまずないだろうけれど、もし無人島にひとりで行くなら持っていく本が2冊ある。無人島の門番にどちらか1冊にしろと言われたらけっこう困る2冊だ。 ひとつは『菜根譚』。これは古い中国の本。 もうひとつは『村上春樹、河合隼雄に会いに…

諸悪の根源は

以前、かなり年上の男性と付き合っていた。 父親とほぼ同世代、つまり年齢的には「おじさん」の部類に属する男性だった。 彼の魅力の数は、彼の有り余る欠点に比べれば数えるほどしかなかったが、ひとつ記憶に深く残っているものがある。表情だ。 彼には、あ…

「じゃあ女の賢者タイムは何時なんだ」問題

男の人には、なにやら「賢者タイム」なる特権的時間があるらしい。 女性の私が見聞きした情報によると、賢者タイムとはすなわち人間がもっとも哲学的になりうる崇高な状態および、それが持続するごく僅かな時間を指すようだ。 人間というのは元来とても愚か…

「やった後って割と『なんだかなー』だよね」問題

「昨日ついに○○とやったんだけどさ、なんだかなー」 「あーわかる。なんかさ、やった後って割と『なんだかなー』だよね」 「そうそう、あんまり上がることないよね」 「ないない」 ある雨の月曜日。会社で仕事をしつつ女友達と携帯電話で上記のやり取り。 そ…

生活を営むということ

ある晴れた日曜日、ひとりで道を歩きながらふと幸福を感じた。 近所のクリーニング屋で洋服を引き取った帰り道だった。 空がさきほどよりずっと青く、澄みわたっているように見えた。 手には預けていた愛用のトレンチコートと、ラインが気に入っているシルク…